ご無沙汰しております。兒玉です。普段大学で地理学を学んでいる僕が、建築学・都市計画の専門家がほとんどの会にお邪魔してみたという話です。
1月31日,2月1日と連続で、埼玉県の川越で「全国町並みゼミ」というシンポジウムが行われまして、学生ボランティアとして参加してきました。参加して何が見えてきたのか、その詳細と今後の自分について再考するよいきっかけになったのでつらつらと書き記そうと思います。
誰向けの文章なのかという話ですが一応、①地理学を学んでいる周りの友人,②僕のことを知っている他分野の学生,③僕のことを知っているまちづくり関係者 くらいを対象として書きます。
1.なぜ参加したのか
近世の江戸に詳しい歴史地理学の先生が私の大学にいらっしゃるのですが、その方の発表型の授業をとっていた今年度、ちょうど社会人学生の方とご一緒する機会がありまして色々と情報を共有してもらっていました。都市計画にかつて関わっていた方のようで、このイベントを紹介していただき参加したという経緯です。
歴史的な町並みを保存することが、観光を考える上で重要というのはなんとなくでもイメージできるかと思いますが、そもそも町並みとはなんなのか、また保存するべきものはなんなのか。僕がいま学部で学んでいる地理学だけでなく、法学,政治学,歴史学,建築学などの多くの分野で”町並み”というものは話題となりやすいです。
その中でも、これは都市計画や建築を専攻されてきた方が多く参加されるイベントです。地理学ばかりでなく他分野の方との繋がりが得られたり、その学際分野から見た問題点を把握できたりしたら良いなと思い、思い切って参加しました。
2.シンポジウムの趣旨
今回のこのイベントでは、広く日本中から(今年はインドや台湾からも)町並み保存に関わっているNPOの方々や大学教授、自治体職員の方々が集まり、総勢500人ほどで、町並み保存の現状と今後について話し合われ共有されました。
1日目は、参加者が6つのグループに別れ、会場である川越の街歩きとそのあとの分科会をそれぞれ行いました。私がお手伝いさせてもらったグループでは、「歴史的都市環境をどう守るか?〜歴史的町並みを維持発展させていくための法制度は如何に〜」というテーマでパネラーの方々4人と司会の方を中心に議論されました。
(初めての方に。)これまで、町並み保存といったときにとりわけ重要視されてきた制度は、伝建制度といい、文化庁によって「選定」されるものです。建造物の群(町並み)が伝統的であることを評価する制度で、これに選定されると「伝建地区」と呼ばれる枠組みで捉えられ、観光地として自治体では活用されてきました。有名どころでいうと、今回訪れた川越や、岡山の倉敷、岐阜の高山など、いわゆるタイムスリップしたような町並みが思い出されると思います。
今回このシンポジウムを主催している「日本町並み保存連盟」は、主に伝建地区指定を目指す全国のまちづくりNPOが集まって結成された、息の長い団体で、現在の日本にある多くの伝建地区・観光地で課題が山積みであることを危惧し、新たな町並み保存の方法はできないかを考えようとしました。それが今回の分科会のテーマでした。
このシンポジウムの参加者のうちほとんどが同世代が工学系・建築系の院生ばかりだったこともあり、普段地理学科で学んでいる僕にとってはかなりの刺激になりました。
3.”町並みを守る”とはどういうことか
この分科会ではズバリ<建築物の保存だけでなく、その建造物を所有し利用している人々に対して注目したり、その周辺環境との関係を重要視する>といった姿勢が、建築の世界でも求められようとしているということを知りました。建造物だけでなく他の文化財の価値を理解できているのは考古・歴史・地理の世界の人くらいだと思っていたので、他分野からもそこが問題提起されていることに、(偉そうに他学部生が言うのはおかしいですが)驚きました。
普段、文化がどうとか歴史がどうとか言っていますが、実際に守る立場というか管理する立場、あるいは仲裁する立場の人たち=現場の人たちがどう動いているのかを知らずに語ってはいけないと思いましたし、加えてそれらを支えている法制度についても知らなければ机上の空論になってしまうことに気づかされました…。
分科会の内容を取りまとめる作業を学生スタッフとして手伝ったのですが、そこで僕が作成したスライドをすこし載せます。
4.伝建と文化的景観
町並みを保存するのによく用いられる制度としてまず伝建制度(伝統的建造物群保存制度)が挙げられますが、それ以外にも街環(街なみ環境整備事業),文化的景観などがあり、それぞれ国の機関に対して「届出」か「指定」か異なっている制度です。
伝建は、一度指定されれば半永久的に建造物の取り壊しは禁じられます。それは素晴らしいことでありますが、所有者が親から子へ、孫へ変わっていったときに管理していけるかわからないという事態や、建造物の保存ばかりが先行してそこでの暮らしとの関係が途絶えてしまい安易な観光利用につながる可能性もあり、いくつか課題を抱えている制度でもあるのです。それは裏返して言えば街の価値づけに有効であるとも言うことができます。
一方で、ここでは「文化的景観」にも触れようと思います。
文化的景観とは,以下の文化財を指します。
地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの(文化財保護法第二条第1項第五号より)
文化的景観 文化庁のページより
伝建制度に比べて制定基準が緩く、建造物に限らない田園風景や自然環境を含んでの景観を指しています。写真にある柴又は、帝釈天に向かう小さな商店街を軸に、江戸川を挟んだ千葉県と結んでいる渡し船「矢切の渡し」や周囲の田畑の景色を、土地の歴史を含めて残していて、昨年に東京都初の文化的景観に登録されました。都心から近く、土地の変化が比較的大きい土地で、建造物そのものの年数はそれほど経っていないと言うことも含めて、伝建よりも文化的景観の方がふさわしいと判断され、区の産業観光部観光課の学芸員の方が後押しされたようです。
伝建制度に比べると、登録されて以降の守らなければいけない事項が少なく、ある意味で”名前だけ”になる危険性も持ってはいますが、建造物だけでなくもっと広い地域の要素に価値を見出そうとしている点は評価できると思います。
<町並み保存で求められているものは、この2つの制度を筆頭に、よりバランスの良い制度が生まれ、何よりそれらを自治体やNPO,民間が認識していくことである。>要約するとこういうことです。
伝建制度に頼り過ぎない町並みの保存が重要であることが、この建築の世界でも共有されていますし、街を対象にする他の学際分野からも一緒に考えていくことが必要でしょう、きっと。
5.他分野にも入りこむ勇気と敬意。
こうして他分野のイベントに行ってそれぞれの世界の最低限の共有言語を知っていかなきゃいけない。その世界のプロには追いつかないまでも、自分の学んでいる世界の一つ隣の分野について最低限知ることは、見方が増えることにも繋がるし、今後の関わり方を考えるにも欠かせないことだと改めて考えさせられました。街に関わろうとする人間なんだったらこれくらい知らなきゃいけないなと今気づけた気がします。良い経験でした。
(この間数えてみたら、伝建地区に30以上も行っていたことが発覚しました。町並み保存に興味を持った理由はいくつかありますが、その中でも実際に地域に出て活動させてもらったときの話を今後しようと思っています、長々とありがとうございました。)